座席 : 1階-ニ列-33番 (全席指定)
開演 17:11 → 終演 19:25 (公演時間 : 2時間14分)
【Set List - セットリスト】
(朗読 - マッチ売りの少女 motif)
M01. エジソン ~ あしかせ
(MC-0)
M02. 窓
M03. マトリョーシカ
(MC-1)
(朗読 - 白雪姫 motif)
M04. カルデラ
M05. あたしの心臓あげる
M06. 枕詞
(朗読 - アダムとイヴ motif)
M07. 砂の城
M08. はさみ
(MC-2)
M09. 月曜日にうまれた子供は
M10. ピカソ (バンド紹介)
M11. 解放区への旅
M12. 君が私をダメにする
M13. 虎視眈々と淡々と
(MC-3)
M14. 骨
~ Encore ~
(MC-4)
M15(En-01). ウエット
(MC-5)
M16(En-02). ブルー
(Ending) ※ S.E. : 砂の城 → 月曜日にうまれた子供は
【Comment - コメント】
2017年9月24日の「音楽の乱」で,劇的な復活を遂げた黒木渚女史の,復活・第2弾ともいうべき Live・・・否,"Concert" と "Live" の融合でした。毎回,ただの音楽 Live にとどまらず,朗読やら寸劇やら,凝った手法を仕掛けてくる渚女史,今回も・・・正直,予想がつきませんでしたし,最後まで,想像の中に葬るに余る展開でした。
「マッチ売りの少女」(motif) の朗読から,アコースティック「エジソン」~「あしかせ」で,静かに幕を開けた舞台。そう,静かな幕開けにして,客席が「座ったまま始まる」なんて,はじめてです。もっとも「全席指定」自体,あんまりないんですけど・・・明らかに,いつもと違う雰囲気が漂います。
今回は,各地を回る Tour ではなく,2018年2月24日,一夜限りの砂の城を築くために,いろんなこだわりをもって,準備を重ねてきたようで。そのときの MC のたとえが,「Tour は『焼肉』だと思っていて,肉を焼くのは私でも,各地で『タレ』が違う。Tour が『焼肉』ならば,きょうは,一夜限りの『フルコース』で」・・・Tour と単発 Live を「焼肉とフルコース」に例える人を,私,他に見たことがありませんが・・・合ってるかどうかはどーでもよくって,その感性,そのものが素晴らしい。
続く朗読「白雪姫」(motif) では,実は,「リンゴの香り」を演出に加えていたとのこと (グッズのスプレーにもあり)。「とのこと」というのは・・・すいません,MC で言われるまで,ぜんぜん気がつきませんでした。席が遠かったということもあるかわかりませんが,「枕詞」の歌詞そのものじゃないですかって,芸が細かいなあ。ちなみに,三上ちさこ (ex. fra-foa) さんも来場されていたようで,「鏡よ鏡」のくだりで,ずっと頭から離れない一節があるようでしたが・・・個人的には,そもそも,三上さんと一緒の「砂の城」にいたという事実自体が驚きでした。完全に後付けながら・・・この 2人,互いに通ずるところがあるような気がします。
さらに,「アダムとイヴ」(motif) の朗読から,今作のハイライト「砂の城」へ。ここまで振り返ってみると,朗読のストーリーと選曲が,実によくマッチしていることに気付かされます。そして,バンドのクオリティがすごい。「誰々がやっているからいい」というわけではなく,ただただ,圧倒的な存在感で聴かせてくれます。今回の Live のために用意した同曲のほか,マザーグースのうた「月曜日生まれの子どもは美しい」の続きを唄った「月曜日にうまれた子供は」までやってくれました。「美しい」この 1行というか 3文字・5音節から,その後の世界を広げるあたり,さすがです。文筆家としても定評があるだけあって,文学と音楽の両立,というより,渚女史にとっては,両者は密接不可分なものなのかもしれません。それこそ「音楽」の一面だけをみていると,片手落ちになりそうな感じさえしてきました← それ私だ
しかし,「はさみ」までの 8曲が終わって,珍しいくらいに,スタンディングにならない・・・渚女史も,普段の Live と勝手が違うことを察してか,「立ちたいのに立たせないプレイ」とか,語弊も何もありまくりの謎プレイを宣言しては,それに喜ぶ観客もちらほら← ということで,ようやくスタンディングにした後半は後半で,「ピカソ」で「桃から生まれた桃太郎」ならぬ「林檎から生まれた林檎太郎」が爆誕。田中農園の本物のリンゴを投入する本格派でした。「ピカソ」なのに,なぜか「桃太郎」で鬼ヶ島へ行く設定で,バンドメンバーはお供に,客席は,入場時に配られた赤リンゴと青リンゴのポストカードを使って,「桃太郎歌合戦」と称して,桃太郎の歌を斉唱させる一幕も。後の「虎視眈々と淡々と」でも,「でたらめ/でこぼこ」を歌わせるところで使うんですが,リンゴのポストカード,こんな使いかたをするとは,まったく予想してませんでした。というより,思った以上にストレートな使いかたでしたね(アセアセ
冒頭から「終わりがくることを意識して,楽しんでほしい」というくらい,一夜限りの砂の城,城が消えてなくなるところまでを,ひとつの作品として仕上げただけあって,最後は「骨」,そして「幽霊」(ウエット) からの「ブルー」と,とことんこだわり抜いた世界観が伺えました。そんな渚女史が影響を受けた童話が「赤い靴」で,赤い靴を履いた女の子が,永遠に踊り続ける呪いにかかり,両足を切断することで呪いが解けるというストーリーが (注:私,この童話のストーリーすら知りませんでしたが),自分自身の人生そのものだと。喉の不調で休業していたときでさえ,文筆なり楽曲なりを休むことができなかったことからも,その執念のほどが伺えます。さらに驚くべきは,自ら,その呪いを解くことはせず,ハッピーエンド (?) になることを放棄したというではありませんか。「音楽の乱」で「転んでもただでは起きない」と言っていたことも,また,ある種の呪いがもたらしているものなのか・・・って,「呪い」っていうと,なにやら不穏な雰囲気もするんですけど,それもまた,渚女史の世界観だからこそなせる,エッジの効いた名表現だと思います。ちなみに,バンドメンバーの好きな童話は,宮川トモユキ (ba.,髭):耳なし芳一,柏倉隆史 (dr.,toe,the HIATUS):ウサギとカメ,多畠幸良 (key. ヘンゼルとグレーテル,井手上誠 (gt.):シンデレラでした。誠さんは・・・「幼稚園のときに,シンデレラで王子様の役をやってた」という,告白という名のオチまで飛び出し,「王子」と呼ばれる日も近い←
「音楽の乱」では,正直,だいぶ危なっかしい歌いかたというか,キーの変わりようが大きく,聴いていて戸惑いもありましたけども,今回は,キーも,おおむねもとに戻り (それ自体をよしと感じるかは,個人差がありますが),安心して「復活」と言えるステージだったと思います。構成も,以前のそれに近い感じになり,独特の世界観も相まって,これぞ「活字と果実」を体現した表現者・黒木渚,というステージでした。なにより,その「潔さ」が,見ていて,実に痛快です。その一方で,気がかりだったのが,客入りの少なさ。約 2,000席ほどあるうち,半分くらいしか埋まってませんでした (1階席・後方は「ハ列」以降が空席で,2階席は関係者枠)。正直なところ,もうちょっと入るかと思ってはいましたが・・・他ではなかなか観られない,個性的なステージを展開してくれるだけに,ちょっこし寂しい感じはしました。まあ,次回からは,会場を見直せばいいといえばいいんですけど・・・
(追伸) 会場限定 CD 「砂の城」,終演後に,1枚買ってしまいました。理由はただ一つ,「公演までに CD のプレスが間に合わず,渚女史自ら,手弁当で,紙ジャケットに押す『砂の城』の判を彫っていたときに,左右対称にすることを意識したがゆえか,『城』の『、』一画が落ちた」からです。こんなところにも,イレギュラーなオチがついたようで。